椎間板ヘルニア
症状
- 腰の痛み。くしゃみや咳で痛みが響く、長時間同じ姿勢で悪化する、朝起きたときに痛む。
- お尻から太もも、ふくらはぎ、足先にかけて痛みやしびれが広がっている。
- 足に力が入りにくくなる、つまずきやすくなる、足の感覚が鈍くなっている。
椎間板ヘルニアの疫学(有病率・好発部位・好発年齢など)
1.有症候性の腰椎椎間板ヘルニア(LDH:Lumbar Disc Herniation)
臨床的に症状を伴う腰椎椎間板ヘルニアの有症率は、おおよそ1%程度と報告されています。 国際的には、成人あたり年間発症率は 5~20例/1000人とも示されています。
地域研究(例えば中国・Gansu省)では、成人(18歳以上)を対象にした調査でLDHの有病率が22.77%という報告もあり、かなり高めの数字が出ています。ただし、このような調査では画像診断でのヘルニア所見を見ている可能性があり、すべてが症状ありとは限りません。
2.変性椎間板(ヘルニアを起こすリスクとなる変性)の頻度
日本のある報告では、50歳未満でもかなり多くの人に椎間板の変性が見られ、50歳以上では男女とも90%超に変性椎間板があるというデータもあります。つまり、椎間板変性自体は非常に一般的ですが、必ずしもヘルニア(椎間板の脊髄方向への飛び出し)や症状を伴うわけではない、というポイントは最重要です。
好発年齢(年齢分布)
多くの報告で30~50歳の成人が最もヘルニアを発症しやすい年代とされます。
平均年齢としては、例えばある文献で41歳が平均発症年齢と報告されている。また、ガイドライン的な考えとして20〜40歳代が古典的な好発年齢であります。高齢になると(例えば65歳以上)、ヘルニアの「新規発症」は減少するという報告もあります。一方、年齢が高くなると、上位(高位、上の腰椎)でのヘルニア(例:L2/3,L3/4)が増えてくる傾向があるという報告があります。
小児(例えば10代・20代前半)での腰椎ヘルニアも「まれではあるが存在する」という報告があり、若年例も完全にないわけではありません。
好発部位(どの椎間板に多いか)
- 腰椎が最も多い部位です。特にL4/5(第4-5腰椎間)とL5/S1(第5腰椎-仙骨)が圧倒的に多く、成人ヘルニアの大部分を占めます。ガイドライン報告でも、L4/5とL5/Sのヘルニアが最もよくみられる。年齢が高くなると、上位腰椎(例:L2/3,L3/4)のヘルニア比率が増える傾向にあります。
- 頚椎椎間板ヘルニアも一定割合存在します。C5/6やC6/7が特に好発部位とされています。
- 胸椎は比較的まれです。
性別・その他リスク
- 男性が女性よりやや多く発症する傾向。いくつかの報告で男性:女性=約2:1の比率があります。
- リスクファクターとしては、BMI(肥満)、遺伝的要因(コラーゲン・マトリックス関連遺伝子など)、喫煙、物理的な負荷(重労働、高ストレス職業)などが関係しています。
- また、加齢による椎間板の退行変性が根本にあるとされており、椎間板の変性はヘルニア発症の土台となります。
ナチュラルコース(自然経過)
- ヘルニア部分(突出・脱出部)は時間とともに退縮・吸収することが多く、画像的には多くの症例で部分的・完全な「縮小」が確認されています。
注意すべきポイント
- 「画像所見としてヘルニア」 があっても、必ずしも症状(痛みや神経症状)を伴うわけではありません。
- 特に高齢者では、画像的な変性/ヘルニアがあっても臨床症状とは結びつかないことが多いとされています。
椎間板ヘルニア(特に腰椎椎間板ヘルニア:LDH)について、症状と治療方法(保存療法・手術療法)を、医学的エビデンスに沿って整理して説明します。
1.椎間板ヘルニアとは?
椎間板の内部にある「髄核」というゼリー状の構造が外に飛び出し、神経根(足の神経)や馬尾神経(中心の太い神経)を圧迫する病気です。
2.主な症状
神経根症状(最も多い)
ヘルニアが左右どちらかの神経根を圧迫することで起こります。
典型的な症状
- 坐骨神経痛
お尻 → 太もも後面 → ふくらはぎ → 足先にかけての痛み・しびれ - 片側の下肢痛(腰より“足”の痛みがつらいことが多い)
- 感覚障害(しびれ、麻痺感)
- 筋力低下(つま先立ち・かかと歩きが弱いなど)
- 長く座る・前かがみで悪化しやすい
腰痛
- 腰の中央〜片側の痛み
- 咳・くしゃみでズキッと悪化することも多い
馬尾症候群(稀だが緊急)
ヘルニアが中央に大きく飛び出し「馬尾神経」を圧迫した状態です。
これは緊急手術の適応となる非常に重要な状態です。
危険サイン(Red Flags)
※ これらがある場合は即日受診・緊急対応が必要です。
- 両脚のしびれ・力が入りにくい
- 膀胱直腸障害(尿が出にくい・漏れる、便が出にくい)
- 会陰部の感覚鈍麻(サドル麻痺)
3.診断
- 診察(神経学的診察):筋力チェック、異常感覚、深部腱反射。
- SLRテスト(下肢伸展挙上テスト)
- MRI:最も確定診断に有用ではありますが、診察との整合性が大事です。
- レントゲンは骨の状態を見るのみで、ヘルニア自体は写りません。
4.治療方法
基本は「保存療法」(手術をしない治療)
椎間板ヘルニアは自然に縮小・吸収することが多く、痛みも通常数週間〜3カ月ほどで軽快します。そのため、まずは保存療法が原則です。
1.薬物療法
- 消炎鎮痛剤(NSAIDs)
鎮痛効果、炎症を抑える - プレガバリン/ガバペンチン
神経痛の改善 - 筋弛緩薬
- ビタミンB12(メコバラミン)
- 短期間のステロイド内服(炎症が強い場合)
2.物理療法
- ホットパック、電気(低周波)治療、腰椎牽引療法、ウォーターベッドなどがありますが、エビデンスレベルは低く、当院ではほとんど意味がないと考えておりますので、当院で考案した運動療法をご提案しております。
3.ブロック治療(痛みが強い場合)
- 硬膜外ブロック
- 神経根ブロック
痛みを一時的に大きく減らし、リハビリを進めやすくする効果が期待できますが、合併症が様々ありますので、総合病院での治療をお勧めしております。
4.リハビリ(運動療法)
- 体幹(腹筋・背筋)の安定化トレーニング
- ストレッチ(ハムストリング、臀筋)
- 正しい姿勢・動作の指導
- 痛みが落ち着いた時期に行うと再発予防にも有効
- 脊柱起立筋の筋緊張を緩める方法をご指導いたします。
手術療法
手術を考えるタイミング
- 3カ月以上強い痛みが続く
- 下肢の筋力低下が進行している
- 日常生活ができないほどの痛み
- 馬尾症候群などの緊急状態
成功率
- 多くの文献で80〜95%の患者さんが症状改善すると報告があります。
- 再発率は5〜15%程度とされています。
- 必要な場合はすぐに手術環境が整った病院をご紹介いたします。
5.自然経過
- 多くのヘルニアは6〜12週間で症状改善すると言われています。
- MRIで観察すると飛び出したヘルニアが縮小・消失することは非常に多い。
- そのため、神経麻痺や緊急所見がなければ保存療法が基本となります。
6. 予防(再発予防)
- 体幹筋(特に腹筋・背筋)のトレーニング
- 正しい姿勢(前かがみを避ける)
- 重い荷物の持ち上げ方の改善:膝を曲げて腰を落として持ちあげる。ご指導いたします。
- 座りっぱなしを避ける。つまり適度な運動を推奨いたします。
- 適正体重の維持。
- 禁煙(椎間板の血流改善) → 禁煙は意外と重要です。



